幼い頃からものを作ること、絵を描くことが好きで、とりわけ「色を塗ること」に興味がありました。
美術系大学に通うも、描きたいモチーフが見つからず悩む中で「色」を描きたいという動機で絵を描いてもいいのではないかと気付いたのは卒業制作に着手する時期でした。
「日常の中で感じた色を描きとめること」をテーマにした卒業制作は、いわば習作のような出来映えでしたが、
そこからは「何を描くか」に捉われることなく、目に映った景色、感情、記憶を頼りに、自分が美しいと感じる「色」の絵を描くことができるようになりました。
あるとき展示会で、私の絵の前に立った方が自然と涙を流してくださったことがありました。
その方は突然涙が出たことに驚いたご様子でしたが、絵を見てくださる方それぞれの瞳に、心に、印象やストーリーを変えて響く色彩の世界、抽象表現の世界の奥深さを感じた衝撃的な出来事でした。
私自身、日々の暮らしや世界の様相が変化する中で、絵を描くことの意味を見失いそうになることがありますが、
そんな時に一呼吸置いて絵の前に立ち、目の前の現実とは違ったもう一つの世界で自己と対話する時間を生涯保ち続けたいと思い、今日も筆を執っています。